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イノベーター理論にみる顧客層の変化

先日、業界団体の会報誌に次のような文章を寄稿しました。
住宅用太陽光発電の普及率が高まるのに伴って、お客様の特徴が変わってきたことを説明する内容です。
業界にいる者として、お客様の変化にいち早く対応して、ニーズに合ったものをきちんと提供できるようになりたいと願っています。

せっかくなので、こちらのブログでも共有したいと思います。

住宅用太陽光発電の普及率

 2017年度末時点において、住宅用太陽光発電の累積導入件数は2,377,832件となっており、戸建住宅総数28,598,700戸に対して、普及率は8.3%となっている。一般的な普及率を算出する際にはこの数値となるが、住宅用太陽光発電の商品特性を鑑みた場合、これとは別の普及率の見方をすることも可能となる。住宅用太陽光発電はどのような住宅にも設置することができるわけではないため、普及率を算出する際の母数を戸建住宅総数ではなく、太陽光発電の導入が可能な住宅総数を母数とする見方である。過去、経済産業省の委託調査により、住宅用太陽光発電の導入ポテンシャルが推計されたことがある。その推計内容が次の図である。


図1:住宅における将来の導入可能量の推計結果(2020年)
(出典:みずほ情報総研「平成22年度新エネルギー等導入促進基礎調査事業 調査報告書」)

 この推計では、(1) 屋根形状が太陽光発電の設置に適していない住宅、(2) 昭和55年以前に建てられた耐震強度が不十分な住宅、(3) 空き家については、太陽光発電の設置ができないものとして導入ポテンシャルを試算している。その結果、1戸あたり4kWの太陽光発電システムを設置すると仮定した場合、2020年時点での導入ポテンシャルを56.1GWと推計している。導入ポテンシャル56.1GWを1戸あたりのシステム容量4kWで除すと、太陽光発電の導入が可能な住宅総数は約1,400万戸と算出することができ、これを母数とした場合の普及率は、約17%であると推計することができる。

イノベーター理論にみる住宅用太陽光発電市場

 イノベーター理論とは、新商品が市場に投入された際に、その商品を購入する早さによって客層を次の図のように5つに分類する理論である。


図2:イノベーター理論
(出典:Everett M. Rogers「Diffusion of Innovations」)

 住宅用太陽光発電にイノベーター理論をあてはめた場合、住宅用太陽光発電が市場に出始めた初期に購入していた客層がイノベーターである。イノベーターは商品の新規性に価値を見出し、購入するという特徴がある。住宅用太陽光発電市場におけるイノベーターは、「太陽光さえあれば自宅で発電できる」、「環境に良い」といったこれまで世の中になかった特性を評価し、購入決定に至っている。イノベーターに続くアーリーアダプターは、自身で能動的に情報収集し、購入判断を行うという特徴がある。住宅用太陽光発電市場におけるアーリーアダプターは、「太陽光さえあれば自宅で発電できる」、「環境に良い」といった商品特性に加えて、投資効果があることを自身で確認および判断した上で購入決定に至っている。住宅用太陽光発電の場合、2009年11月の余剰電力買取制度施行以降に購入した層であると考えられる。
 住宅用太陽光発電の普及率を8.3%とした場合、現在の住宅用太陽光発電市場は、アーリーアダプターが購入している段階と考えられる。一方、太陽光発電の導入が可能な住宅総数を母数として考えた場合、普及率は17%となり、現在はアーリーマジョリティが購入し始めている段階と捉えることも可能となる。

アーリーマジョリティに移行する顧客層

 アーリーアダプターが自分自身の判断で導入可否を決定するのに対して、アーリーマジョリティはオピニオンリーダーの影響を強く受けて導入可否を決定する傾向がある。そのため、アーリーアダプターが導入可否を判断するために、より多くの販売店の提案を比較検討し、実際に契約締結に至るまで納得するまで何度も打ち合わせを重ねるのに対して、アーリーマジョリティはアーリーアダプターよりも簡易な比較検討で導入を決定する。現在の客層がこのようなアーリーマジョリティの特性を有することを示すデータが次の図である。


図3:比較検討状況の変化
(出典:ソーラーパートナーズ「2017年お客様満足度調査」n=213)

 住宅用太陽光発電の導入者に対して、「提案を受けた販売店の数」と「契約を結ぶまでに販売店と会った数」を2015年と2017年に同じように聞いたところ、2015年と比較して、2017年にはどちらの数値も減っており、より簡易な比較検討で導入決定に至っていることがわかった。これは、これまで中心の客層であったアーリーアダプターから、アーリーマジョリティに客層が移ってきているためではないかと考えられる。もし現在中心となる客層がアーリーアダプターからアーリーマジョリティに移っているのであれば、これまでのようなアーリーアダプターに向けたマーケティングではなく、これからは新たな客層であるアーリーマジョリティの行動特性に合わせたマーケティングが求められることとなる。